ちょっと いいお話をご紹介

今日は ちょっと いいお話をご紹介

小学生のとき、家庭科の担当でS先生という先生がいた。歳は40過ぎ、やせていて小柄な女性だった。うちのクラスの女の子たちは、少し口うるさくておせっかいなその先生のことが好きになれず、ほとんどの子が無視したり冷たい態度をとったりしていた。

そのうち授業前になると黒板消しでわざと黒板を汚しておいたり、授業中もわざと大きな声でしゃべることもあり、少しずつそういった状態がエスカレートしていった。

クラスが一度そういう雰囲気になってしまうと、なかなか元に戻すタイミングを見つけることができない。

目立つグループの子たちの問題ある行動に(さすがにちょっとやり過ぎなんじゃないかな)と感じていたような子でさえも、仲間はずれになるのが怖くて、その先生をしつこく遠ざけていたようだ。

そして私も……本当にその先生のことが嫌いなのかどうなのかさえわからないまま、反抗的な態度をとり続けてきた。

そんなある日の家庭科の時間、たしかその日は別のことをやるはずだったけど、S先生が突然「今日は少し楽しいことをしましょう」と言った。

S先生はわきに抱えていた大きな紙袋の中から編み棒と毛糸の玉を取り出し、クラス全員の机に一つずつ配っていった。

「みんな、かぎ編みは知ってるかな?」女の子が喜びそうな編み物の授業。それはきっと先生なりに必死で考えた仲直り作戦なんだと思う。でもクラスのしらけた空気が消えることはなかった。

黒板を使って一生懸命説明するS先生を無視して、みんなで勝手におしゃべりをしたり、席を立って歩いたり、まるで教室は休み時間のような状態で、編み棒には誰ひとりとして手をつけなかった。結局そのままチャイムが鳴って授業は終了。「男の子は面白くなかったかな……」と先生は言ったけど、女の子も編み棒には手をつけていなかった。さすがにひどいなと思いながら、私はS先生の姿を見守っていた。

自分が持ってきた紙袋に、配ったときのままの編み棒と毛糸の玉を一つひとつ丁寧に回収してまわるS先生の目は赤かった。「それじゃあ、来週は教科書の続きをやるから……」うわずりそうな声でそう言って、足早に教室を出ていった。S先生は明らかに泣いていた。

S先生が出ていった後、クラスの女子グループリーダーNちゃんが「なにあいつ?」と言って笑い出した。その声を合図に、他の女子も一斉に笑い出した。でもなんとなくみんなの顔は少し引きつっていたような気がした。私は、大人の女性が泣いているところを初めて見た。しかも私たちのせいだ。

一番なりたくなかった人間に、今自分がなろうとしているような気がした。
家に帰っても、泣いているS先生の顔が全然忘れられなかった。

我慢できなくなった私は、次の家庭科の時間にS先生に謝ろうと決めた。
ちょうどその日はS先生の誕生日だということもあって、謝りたい気持ちを後押ししてくれたのだ。そうだ、誕生日だからなにかプレゼントしよう。

クラスの子たちにどう思われるか少し怖かったけれど、わざわざ授業内容を変えてまで歩み寄ろうとしてくれた先生の気持ちに応えたかったのだ。先生が一生懸命教えようとしてくれた、かぎ編みを使って手編みのマフラーをあげようと思った。

編み物には慣れていない。本当に来週までに間に合うかどうか心配だったが、その日から一生懸命マフラーを編みはじめた。遊ぶ時間を削って早く帰宅したし、休み時間にもこっそりと編んだ。

何度も失敗したけど、何度もやり直して、無我夢中で編んでいた。「なにしてんの?」
突然声をかけてきたのは女子グループリーダーのNちゃんだった。

私はみんな外に出ていったと思いこんでいて、うっかり昼休みに教室でマフラーを編んでいたのだ。しまった……この子に嫌われたらクラスに居場所がなくなる。「なにって……」とっさになにか答えようとした私の脳裏に、目をまっ赤にしたS先生の顔が浮かんだ。
嘘をつくのは違うと思った。「S先生にプレゼントしようと思って。もうすぐ誕生日らしいから」勇気を出して言うと、Nちゃんはしばらく黙ったまま私の顔を見ていた。「ねえ」Nちゃんが言う。「それって……私も一緒にやっちゃ駄目?」

「え?」予想外の言葉に、今度は私がNちゃんの顔を見返した。「もちろんいいよ!」思っていたよりも、かなりの大声が出てしまった。でもNちゃんは特に気にする風でもなく、私の前の席にどっかり座って、「ねえ、それどうやんの?」と身を乗り出した。「これってやり出すと止まんなさそうだねー」私はすごく嬉しかったし、一生懸命かぎ編みに挑戦するNちゃんはすごく可愛らしいと思った。

次の日には、クラスの女子全員でマフラーを編むことになった。みんな罪悪感を持ちながらも、ずっとどうしていいかわからずに悩んでいたのかもしれない。

それぞれ、好きな色で少しずつマフラーを編んできてもらうことにした。そして先生の誕生日の2日前には、全員分の思い思いの色で編まれた四角いモチーフが集まった。
「少しちっちゃくなっちゃった」

Nちゃんもピンク色のモチーフを持ってきてくれて、集まったモチーフを、慣れない手つきでつなげていくと、派手なのも地味なのも、きれいなのもぶかっこうなのも、みんなの想いが全部つながって一つの作品になった。

でき上がったのは、それはすてきなボーダーのマフラーだった。みんな仕上がりに大満足。クラスに歓声があがった。「先生喜ぶかなあ……」そう言ったNちゃんは少し涙目になっていた。

そしてS先生の誕生日当日。家庭科の授業のはじまりを告げるチャイムが鳴り、すりガラスにS先生の小さな影がうつった。私はみんなの想いがこもったマフラーを強く抱きしめた。






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